2012年の3月1日、関西国際空港から飛び立ったピンクの機体が、新たなる歴史の始まりを告げました。まず一機目、朝7時過ぎの便が、北海道の新千歳空港に向かって。その20分後には、二機目が福岡空港に向かって離陸し、それからも相次いで各地の空港へとピーチの機体は発進していきました。記念すべきその日には、空港には多くのマスコミと飛行機ファンが訪れたものです。日本初の本格的なLCCが、ついにデビューしたのでした。
LCCはそれ以前から、欧米諸国で発達していたビジネスモデルです。その先駆けとなったのは、アメリカのサウスウエスト航空。あらゆるアイデアを駆使して運行コストを削減するという同社の方法は、アジアでも見習われ、日本にも2012年までに10社が上陸していました。そしてついに誕生した待望の日本初LCCが、ピーチ・アビエーションなのです。
ピーチという名の通り、桃色をモチーフにした機体は空港でも非常に目立ち、青い空にもよく目立ちます。ここまで派手なカラーリングの機体は世界でも珍しいそうです。2011年の11月、就航に先駆けて真新しい一号機がフランス・トゥルーズ工場から関空に降り立ったときには、飛行機萌えの「空美ちゃん」たちの歓声で、空港が一時華やいだものです。
現在は、北は北海道、南は沖縄。そして香港、台北など、国際線も展開するピーチ。成田〜関空という路線も非常に便利で、庶民の「空の足」として、すっかり定着しています。
非常に特徴的なデザインのピーチ機ですが、これをスッピンにすると(つまり塗装を取ってしまうと)、エアバスの短通路型ベストセラー機A320が姿を現します。実は、ピーチで利用されている機材は、このA320だけです。A320、たったの3機で就航開始。現在もわずかに18機しかありません。また今なお、使用されている機材は、このA320だけです。
実は、使用する機材をなるべくシンプルな構成にして、コストダウンを実現するというのは、世界各国のLCCで共通しているポイント。ピーチのように、座席数130〜160というクラスの旅客機一種に限定して運航しているLCCは珍しくありません。
運航機材を限定する理由としては、これも「効率化」。毎回同じ飛行機を飛ばすので、パイロットにとっても効率のよい運行ができます。また、日頃のメンテナンスを行う整備士たちにとっても、同じ機材を見る方が効率的です。毎日整備する機材が同じなので作業にも習熟し、徹底した安全管理ができます。結果として、メンテナンス費用も、複数の機材を扱うより大幅にカットできるのです。
世界のLCCの中で、もっとも多く活用されているのが、前述のエアバスA320と、ボーイング737です。いずれも、飛行機に詳しい人なら知らないはずはない、超ベストセラー機です。これまでの実績から安全性もしっかりと証明されており、操縦経験を持つパイロットも多いので、自前の操縦士育成が難しいLCCでも経験者採用がしやすいという長所があります。また、中古機市場に多く出回っているので、資金力が十分でない新興LCCでも手が届きやすい! ちなみにLCCの元祖・サウスウエスト航空は、737を選択しています。
とはいえ、世界のLCCが使用しているのは、もちろんA320と737に限りません。
たとえば、2010年12月、羽田で就航を開始したエアアジアXは、エアバスA 330を導入しています。A330は、A320と比べると一回り大きい機体です。また中には、短く、利用者も多くない路線を、小型機で飛ぶLCCもあります。"次世代機"と呼ばれる、最新機を持つLCCもあるようです。ピーチは定番のA320に独特なカラーリングで個性を出していますが、世界のLCCも個々に特色があります。ただ、運航機材を統一するという方針は、どこも変わらないようですね。元祖・サウスウエストも、今でも737で運行しています。