2012年の就航以来、初の和製LCCピーチが使用している機材は、エアバスA320 だけです。機材の数は増えましたが、機種は変わっていません。なぜA320が選択されたのかと言えば、これは至ってシンプルで、従来の定番機だからです。「標準機」と言ってもいいでしょう。操縦経験のあるパイロットが多く、整備士にとっても馴染みがあり、メンテナンスしやすい。中古で安く買える、新興航空会社としても有難い、扱いやすい機種なのです。
A320は、1987年にデビューしてから、今年で30年の歴史を迎える機種です。
受注数としては、同じく定番のボーイング737には及びません。しかし、そのペースで言えば、10年以上先輩の737に勝る勢い。安定感のある性能、そして経済性が、これだけ売れている理由でしょう。車でたとえれば、カローラ、みたいな機種とも言えそうですね。
さすがに世界の数多くのエアラインで信頼され、用いられる機種です。空港でのハンドリング業務(地上支援業務のこと。貨物の積み下ろし、航空機の誘導など)にも、すでに多くのスタッフが習熟しています。また日々の整備に必要な部品も、市場にたっぷりと出回っていて、メンテナンスに手間もかかりません。旅客機は機種ごとに資格を持った整備士とパイロットが必要なのですが、定番のA320の有資格者は多く、人員補充も簡単です。
つまりは、そう、何かと便利で扱いやすい「標準機」というわけです。
ライバルは上でも触れたボーイング737ですが、細かい部分はともあれ、利用者感覚で言えば、一つ大きな長所があります。737と比べて、A320はボディ幅が約20cm広く、その分、高い(といっても実感的には微々たるものかもしれませんが)居住性があるのです。
さて、A320は全長37.6メートル、全幅が34.1メートル、標準座席数150席というスペックです。短通路型機、すなわち、機内に通路が一本しかないという設計。日本ではじめてこの機種を導入したのは、ANAでした。1991年、それまでのボーイング727-200や737-200の後継機として、A320を選択したのです。
とてもベーシックな印象のA320ですが、実は開発当初から、そのハイテクな設計は話題になっていました。それまでの操縦桿(みなさんがイメージされる"あの操縦桿"です)に代わる「サイドスティック」の導入。「フライ・バイ・ワイヤ」と言われる新しい電子制御機能も革新的でした。とりわけ、これまで戦闘機にしか使われてこなかった「フライ・バイ・ワイヤ」の民間旅客機導入は、話題となったものです。このシステムは、パイロットの操縦操作を電気信号に変換して数値化し、コンピュータが計算した非行のための最適な数値と比べて、操作を自動制御するもの。未だ現代的で、古びてはいないシステムです。
前述の「サイドスティック」「フライ・バイ・ワイヤ」という、A320に導入された新たな技術は、実用開始から30年以上経った今でも、"時代遅れ"にはなっていません。むしろ今なお先進のシステム。これはよく考えると、すごいことです。我々の生活の中に、30年以上変わらない物があるでしょうか? テレビも携帯電話も、同じものとは思えないほど変化しました。しかし航空機に関しては、30年前の最新が、今でも「基本」なのです…。
いえ、実際、確実に航空機も変わってきてはいます。しかし、その後エアバスが次々と送り込んだすべての製品には「フライ・バイ・ワイヤ」のシステムが組まれ、たとえば2007年にデビューした超大型機のA380 や、次世代機A350XWBにも受け継がれています。
同システムを取り入れたあらゆる機種では、すなわち、すべての操縦技術が共通となります。よって、パイロットの訓練に時間もコストもかかりません。操縦する者の感覚としても、A320でもA380でも違和感なくなじめるようです。これが、エアライン各社から支持を集める理由の一つであり、とりもなおさず「標準機」たるゆえんでもあるわけです。